負の世界遺産、アウシュビッツ強制収容所へ②今、考えるべきこと。
本当は、アウシュビッツに来るのがとても怖かった。
110万人もの人が殺された場所に足を運ぶことが、怖かった。
でも、いざ敷地内に入ると不思議とあまり重苦しさを感じない。
ブログではここで涙する人もいた。
目を背けたかった、そんな感想を書いてる人もいた。
それなのに、いたって冷静に物事を受け入れている自分に驚いていた。
なぜだろう。
事前にその事実を知っていたから?でも何かが違う。
ここは、収容所なのにまるでキャンパスのような造りをしている。
並木道があって、立派なレンガ造りの建物があって。
この木もすべて、囚人に植えさせたもの。70年でこんなにも立派に育った木は、あんな残虐なことがされた場所とは思えないほど、青々としている。
この整った雰囲気を醸し出すことで、少しでも残虐性を薄めようとしたドイツ人の計画でもあるようだ。
なるほど。
だからかもしれない。
私がこうして、敷地内も怖がらずに立つことができたのは。
とても不思議な感覚。
私たちはそのままここから3キロ程離れたビルケナウ収容所へ。
有刺鉄線で囲まれた東京ドーム37個分もの広大な敷地は、アウシュビッツより暗くどんよりした空気が漂っていた。
囚人たちのリアルな生活の場がここにはまだ残っていて、
恐ろしかった。
だから、ここで撮った写真はあまりない。
『傍観者であってはいけない』
これは、何度も中谷さんが口にしていた言葉。
ナチス政権は、誰もが賛成していたわけではない。
一番多かったのは賛成も反対もしていない、
傍観者だった。
傍観者…
まさに私だ。
政治に関心があるわけでも、経済に関心があるわけでもない。
ただ、ことの経過を見ている立派な傍観者だ。
傍観者は一番楽でもある。意見をぶつけ合うこともなく、自分を守ることができるから。
イエスかノーと答えられない日本人体質の私には、自分の意見を言うことがすごく苦手。
きっとそれは、きちんと考えていないから。
考えることから逃げ続けてきたから。
対立しそうになったら、うまく中立的な立場を保ち、常に自分を守り続けてきたから。
『傍観者であってはいけない』
そのためにも、まず知る。ことから始めなければならない。
学ぶ。ことは、誰だって、いつだって始めることができる。
知ることで、自分なりの意見を持つ。
それをいろんなところに投げる。
乱暴に投げつけるのではない。
こうして、いろんな場所でぶつかり、削られながら、自分だけのものにしていく。
考え続けることで初めて、自分と違う意見を受け入れることができるのかもしれない。
また、中谷さんはよく難民問題の話もしていた。
ここで亡くなった110万人の人々には当然、
一人一人、家族がいて、愛する人がいて、大切な人がたくさんいる。
一人で生まれて一人で生きている人なんて誰もいない。
これは間違いなく世界共通だ。
たまに、一人ぼっちで孤独に感じることはあっても、
きっと誰も無意味にあなたを殺したりしない。
それは、この戦争のない時代の日本に偶然生まれたから。
きっと偶然でしかない。
この110万人の亡くなった人々も偶然、この時代に生まれたが故に、悲劇に巻き込まれただけなのかもしれない。
でも、今この瞬間も同じ時代に生きていながら、生きることに精一杯で、日々命を繋ぐことさえままならない人たちが世界にはいます。
それが、難民の人々。
ここヨーロッパにいると、よく見かける難民。
日本にいると、見たこともない難民。
ちょうど、難民の受け入れ問題が世界で注目を浴びていた時だった。
タイムリーで偶然ヨーロッパにいたからかもしれない。
いわゆる難民と呼ばれる人々を目の前にしたからかもしれない。
でも、大好きな日本がこのような決断をしたことがここにいると恥ずかしく思えた。
自分のことで精一杯。
まるで自分を見ているようで。
ドイツは自分たちの国が過去にした過ちを反省し、多くの難民を受け入れ手を差し伸べている。
この姿勢があったからこそ、今のドイツがあるように思う。
ここまで残虐なことをして、一度失った信頼をここまで回復できたドイツは本当にすごい。
また、同じような悲劇をドイツが繰り返すとは思えない。
それに、ドイツ人は歴史にとても詳しい。
自分たちの国が過去にした過ちを認め、きちんと理解しようとする姿勢が感じられる。
一方で私は、日本が過去に起こした中国やアジア諸国の人々に行ってきた残虐な行為や背景をそもそもあまり知らない。
痛みを知っている者は、傷を隠すのではなくて、
その痛みを公にし、同じ痛みを繰り返さないようにしなければいけないと思う。
今、私にできることは、常に考え続けることかもしれない。
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